
「本業の将来性と自分の方向性、そして保証なんで一切無い、しがない自営業者が家族を持つ責任感と最低限のストック収入の確保が急務」と、当時の僕は焦っていた。文字通り「必死」だった。
不動産投資をスタートさせる!と決めてから5ヶ月間、売買業者は70社、銀行も周り倒して一切の成果を得られることができない事実に愕然とした僕は、それでも諦めずにいろんなセミナーに参加したり、業者周りを続けていた。
この辺の経緯と詳細は別記事で詳しくまとめてある。
そんなある日、「戸建再生」というジャンルのセミナーを発見。一刻も早く手残り収入を上げたかった僕に戸建という選択肢は一切なかったのだが、なんでも相当な数の戸建を保有しているとのこと、半ば興味本位でそのセミナーに参加した。
まあ、何かの参考になればいいかなと。勉強にならないことなんて無いわけだし。とりあえず出ておくかと。
しかしそこで僕が見た事実は、頭に100万ボルトの電流を流された結果、脳の回路が全て刷新され全ての思考回路がひっくり返り、まるで別人として生まれ変わることを余儀なくされる事実が待ち受けていたのである。
衝撃的だった超ボロボロ戸建再生の事実
詳しい内容は割愛するが、そのセミナーで見た内容は文字通り「衝撃的」。
絶対に住みたくない、いや推定住めないであろう経過年数何年かもわからない、天井もなくて雨が入りたい放題、床は崩壊して歩くと地獄の落とし穴にはまり込み、生涯抜け出せなくなるほど荒れ果てた戸建を超激安で買って、しかもそれを自己労働力投入だけで何ヶ月もかけて再生させた物件。
生まれ変わったその物件たちは、まるで別物。いや、もちろんボロ感はかすかに残っているが、それを工夫とデザインセンスであたかも「あれ?もしかしてこれおしゃれじゃん?」と錯覚させるほどの作り込みになっていたのだ。
しかもかけた費用は数十万円。工務店や職人さんにやってもらったら数百万円はくだらないであろう費用を、自分の労働力と時間を使うことで見事に再生させ、あまつさえ、そこには既に人が住んでいるというのだ。
そんな安く仕入れて安く仕上げているため、安い家賃でも利回りは30%を超えていたのだ。
これには驚いた。そう簡単には驚かない僕でもおったまげた。こんなことができるのかと。
しかしながら、当時の僕には真逆の気持ちも瞬時に生まれていた。自分一人でもし見に行ったとしても、怖すぎて買えないのではないだろうか?そもそも論として、一体どうやってこんな風に作り変えられるのか、と。
しかし、今まで僕にとっては人生をやり直す程に長く感じたあの「買えない5ヶ月」という期間と、「またどうせ相手にされないし買いたい物件も出てこないし」というあの自分ではなんともし難い状況がこの先も待ち受けている事実にだけは、ほとほと嫌気がさしていた。
それらを天秤にかけたとき、超ボロ物件への恐怖というネガティブな思考よりも、この不毛とも思える作業を繰り返すことへの嫌悪感のほうが圧倒的に勝っている事実を僕は自ら認識した。
そして築古戸建再生への道へと歩みを進めることになる。
まさか、戸建てが購入物件候補になろうとは。人生分からないものである。
早速戸建物件探しをスタート
セミナー受講後、家路につくなり、返す刀で雷神のごとくPCを起動、そして戸建物件探しをスタートさせた。
するとそこはまるで別世界。不動産なのに200万、300万円台という見たことがない金額で売られまくっていたのだ。
「なんじゃこれは!?」
こんな激安で家が買えちゃうのかと。なにこのバーゲンセールはと。
しかしながら、もちろんそこに鎮座する物件たちは、はたから見ると「大丈夫?」と声をかけたくなるほどボロそうに見える。
怖い。やはりちょっと怖い。しかし金額の安さが僕に勇気をくれる。
「これなら現金でも買える!」と。
当時の僕には本当に宝の山に見えたのだ。極論どれだっていい、この物件たちに今すぐ片っ端から問い合わせて、もしも買わせてくれるならすぐにでもハンコ押すぞと。
しかしそれは裏を返すと、それほど当時の僕には見る目がなかったのも事実だ。1棟目の物件、恐らく今なら買わない。諸々の条件で勘案するとやはり買うべき物件ではない。
それでも、そうは言っても、結局買ってよかったのである。「大家さん」という経験をいち早く積ませてくれたこの第一号物件には心から感謝しているのだ。
そしてそのまま問い合わせを実施、現地へ向かう
数ある物件の中から僕が選んだのは、埼玉県にあるとある田舎地域の戸建。
築43年だが間取りは90㎡と広く、ネットで見る限りでは状態はそれほど悪そうではなかった。
「これならド素人の僕でも行けるぞ!」
期待に胸を弾ませ問い合わせフォームから情報入力して送信。すると数時間後にはその物件を掲載していた女性スタッフから電話がかかってきた。
そして、今までアパートなど1棟モノでは聞かれたことがない質問を次々と浴びせかけられた。
「購入される場合は現金ですか?それともローンですか?」
「どうしてこの物件を欲しいと思ったのですか?」
「いや実際この物件、相当ボロボロですよ。水回りも微妙にやられています」
「畳は全部交換になるでしょうし、床は一部フカフカになっていますよ」
「雨漏りもあります。これ直すのには相当お金かかると思いますよ」
ん?なにこの人?売りたくないの?なんでこんなネガティブ要因ばっかり突きつけてくるの??
こんな経験は初めてだ。こっちは買いたいと言ってるのに、あたかも「来なくていいよ?」と言わんばかりの内容オンパレードだ。
僕の脳内では「???」が踊り狂い、謎すぎて何が今起こっているのか把握することができなかった。がしかし、何が何でも見に行かせて欲しい気持ちが全ての疑問を押さえつけていた。
「はい!大丈夫です」「ええ、問題ないです!」「承知しました、OKです!」「ぜひ行きます行きます!」
と全ての質問に対して「意に介していない」アピールをし、長きに渡るネガティブ爆弾を全てひらりひらりと小春日和に優雅に舞うモンシロチョウのごとくかわし続けた結果、見事内見予約まで取り付けることに成功した。
そして約束した当日、僕は自宅から2時間以上遠く離れた、さらに物件最寄駅からも車で10分以上かかる、場所へ急いだ。
そして、待ちに待った、待ち焦がれた約束の場所に足を運び、無事その愛しの君(物件)に会うことができた。ここだ。ここに来たかったのだ。ワクワク感で心臓の高鳴りがタクシー運ちゃんに聞こえそうな勢いだ。
それはさながら、初デートを約束した中学生が予定よりも30分以上早く付いてしまい、いつもはポケットに忍ばせているポケベルを一点集中でにらみ続け、相手からの連絡がないかどうか期待と不安に押しつぶされそうになりながら胸を躍らせた青春時代の自分。
人生全てに期待を持ち、謎の無敵感を持つ若かりし頃の僕が、そこにはいた。
待っていてくれた「愛しの君」がその全てを僕にさらけ出した
簡単にこの「第一号物件」の可愛い点を記載すると、
- ダイニングの床が腐っていてふかふか
- 同じくダイニングの窓はずれており、力づくで閉める必要がある
- キッチンの水栓からは赤錆が大量に噴出
- 同じく洗面台からも赤錆が噴出
- トイレを流すと地獄のような真っ黒な水を放出
- トイレのドアは真ん中からバキッと割れている
- リビングは子供の落書きが多数
- 1Fのドアは全てずれていて閉まらない
- 廊下と洗面室の床がやられていて恐らくDIYで厚めのベニアが敷かれて隠されている
- 玄関上の小さい屋根瓦が崩壊して下に散乱している
- 玄関扉が劣化で板が剥がれ、手でむしると剥がせる
- 玄関に入った廊下の上にアメーバーのような真っ黒の雨染み(雨漏り)
- 3部屋ある畳は全て処置が必要
- お風呂は壁がカビで埋め尽くされている
- お風呂のドアが破壊された状態でドアの体(てい)を成していない
- 二階部分のベランダに出るための窓が閉まらず、隙間が3cmほど空いている
- 二階天井には明らかに雨漏りの実績が見て取れる雨染み
- 外壁には無数のクラックと剥がれ
- 戸袋は完全に崩壊して使い物にならない
- 庭は数年放置された雑草で生い茂りジャングル状態
- 二階に上がる階段の手すりが取れて危険
- 外階段のコンクリートが完全崩壊しており足元が危険
- 外階段に設置されている手すりも崩壊してグラグラ、赤錆で真っ赤
- 擁壁にはびっしりと苔で覆われた状態
ざっと上げるとこんな愛おしい状態だ。
写真も撮ってある。




百聞は一見にしかずというが、事前の販売写真だけでは分からないものである。やはり築40年を超えるといたるところで不具合が出ている。
今では「え?逆にこんだけ?優良物件じゃん?」と思えるほどだが、当時の僕には可愛らしすぎて途方に暮れた。さてどうやって口説けばいいのか、と…
これらの点も含めて売主でもある不動産業者の方が詳しくあれこれ説明しながら案内してくれる。電話で散々僕にマイナスネガティブ爆弾をシャワーのように浴びせかけてきたあの御婦人だ。
仮に彼女の名前を天童よしみ(仮名)とする。
全てのマイナス点を受け入れる僕に、よしみの目つきと態度が徐々に変化
相変わらずよしみは僕にマイナス点を次から次へと説明し、一つ一つ丁寧に、くまなく教えてくれる。
しかし当の本人は「なるほど!」「ほうほう!いいですね!」「へー!そうですかぁ!」などと本来なら効いているはずのボディブローをことごとく交わし、更には、
「いやそりゃ築40年も経ってたらこれくらいになりますでしょ、普通ですよね?ニコっ」
などと、浪速のジョーこと辰吉丈一郎が薬師寺戦で見せた「効いてない効いてない!」と首を横にふるかのごとく笑顔で受け答えするため、少し様子が変わってきた。
よしみ「あうんさんならこの部屋、どう作り変えますかぁ?」「お子さんは今おいくつですか?へぇー!可愛いときですね♥」「へ~WEBのお仕事されてるんですね、そりゃもう、おしゃれですね!」
などとネガティブ要素が消え、なにか少し距離感が変わり、恐らくは僕に好意的な意思を示してくれる勢いで会話が弾みだしたのだ。
このときの僕の気持ちはこうである。
「なんかよしみ気分良くなってきてるよねこれ?買えるんじゃないのこの物件?」
そして夢にまで見た不動産オーナーに
全てのマイナス要素を受け入れる発言を発し、一切の文句を言わない僕に対して明らかに好意的な姿勢を見せてくれるよしみに、最終的に僕が提示した指値は20万円。
販売価格230万円に対して210万円で購入の意思を示したのだ。
僕「何なら今から銀行に行ってお金降ろしてきますよ」
そうかる~く言い放つ僕の回答に対して、よしみちゃんの答えはこうだった。
よしみ「瑕疵担保免責、現金一括でいいですか?それであれば持ち帰って社長に話します!」
ああ、これ行けるでしょ。完全にもらった。僕はそう確信した。
そして翌日には売買をこのまま進めさせて欲しいとの連絡をもらうことができた。
そして売買契約当日。沢山の積まれた書類に僕はひとつずつ丁寧に押印し、社判を押し、約束通り現金で全ての代金を支払い、司法書士さんに登記のお願いをし、晴れて1棟目の物件オーナになることができたのだ。
帰りの電車の中では、今まで投げ出すことなく繰り返し物件を見に行き続けたことや、金融機関に「何しに来たお前?」といった様子で半ば門前払い状態だったことなどが思い出され、感慨もひとしおだったことを覚えている。
にしても、あれだけ集合住宅にこだわり続け、焦りながら各所を回り続けたことを思えば、1件目に見に行って、大した交渉も何もせず、苦労もせず、すんなり買えてしまった。
ものごとなんて案外そんなものなのかもしれない。
今まで内見に来た人のほとんどが買わない物件だった
実はこの物件、長くインターネットで売り出されており、そしてこれまで沢山の投資家が見に来ていた物件だったようだ。
よしみ曰く、「ほぼ全員の方がここがヤバイ、この値段ではちょっと買えない、さすがにキツイ」などとマイナス要素の指摘が多かったとのことだった。
そんなことは僕も売主(よしみ)も分かっているのだ。
つまり、よしみちゃんと最初に話した電話でのネガティブ要素満載トークは、こういった投資家への防御壁でもあり、「どーせまた見に来て買わないんでしょ?」という気持ちもふんだんに含まれていたことが容易に推測できる。
そりゃそーだ、業者だって何回も案内して文句ばっかり言われたら気分は良くないし、そんな事はわかりきっていることなのだ。
そこに来て、ヘラヘラした、東京から来たという謎のITにーちゃん(おっさん)が「全て受け入れる」と気持ちよく引き取ってくれるなら、多少値引きしたって「このにーちゃん(おっさん)に売りたい!!」と思ってくれたのだろう。
売買契約のときになんなら「ワタシ、あうんさんのファンになったから、またいい物件出てきたらすぐに紹介しますね!♪」などと願ってもないオファーまでいただいた。ありがたい。
やはり不動産売買といえども、人と人との付き合いから成り立っているものなのである。
リフォームして募集したあと2ヶ月で賃貸が決まる
長くなるので詳細は別記事に譲るが、いかんせんリフォームも客付けも全てがはじめての作業、それでも一つひとつ学んで現場で実践、うまくいかない点は洗い出して改善、
リフォーム業者も相見積もりをとり、極力最低限の内容に抑えて細かな点は自分でもDIYをしてカバーしながら行い、結果として募集から2ヶ月で入居者さんが付いてくれた。
一般的には2ヶ月といえば恐らく早い方か普通くらいの期間なのかもしれないが、僕にとっては地獄のような長い期間だった。
「ほんとにこんな物件で大丈夫だろうか?」
「やっぱりリフォームが甘かったか?」
「そもそもやっぱり古すぎるのかなあ…」
「やはり買うエリア、間違えてるのかも」
「最悪入居されなかったら売るしか無い、のか…?」
など時折ネガティブな気持ちに襲われたが、それでも買って直してスタートした以上、諦めるわけにはいかない。賃貸仲介業者さんにもヒアリングを重ねながら、物件の悪いところを直しつつ、少しでも見てもらえるように写真や図面を工夫しつつ行った結果が良かったのかもしれない。
兎にも角にも、しっかりとお客さんが付いてくれたし、入居が決まったときの感動は今も忘れない。報われた気がした。
1棟目物件のスペック

- 場所:埼玉県のやや北の某市
- 築年数:43年
- 間取り:6DK
- 販売価格:230万円
- 購入価格:210万円
- リフォーム費用:74万円
- 表面利回り:28.6%
- 実質利回り:20.0%
長くなったため、リフォームや客付けの際の経緯などについては別途記事を書きたいと思う。
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